フェアトレードはもともと、国際貿易の中で苦しい立場にある生産者の生活の自立を目指して生まれました。フェアトレードの主役、生産者の視点からフェアトレードを紹介する紙芝居をご用意しました。どうぞご覧ください。
世界中の人々に親しまれているコーヒー。きっとあなたも、普段からよく飲んでいますよね。実はコーヒーは、石油に次ぐ巨大な国際貿易商品なのです。世界市場での年間売上高は800億ドル以上、全世界で1日約20億杯消費されています。
わたしたち日本人もその例外ではなく、日本はアメリカ、ドイツに続く世界第3位のコーヒー輸入国なのです。
ところでこのコーヒー、一体どこの誰が、どうやって作っていると思いますか?
その人たちはどんな暮らしをしていると思いますか?コーヒー生産国は世界中で約70カ国、実に2500万人がコーヒー農業に関わっているのです。
1杯のコーヒーの向こう側にある、実際のコーヒー生産者の姿を見てみましょう。そして、『フェア』ということについて考えてみませんか
ここはメキシコ南部のイスマス地方。標高3500メートル級の山が連なる山脈の狭間にあり、小さな村が集まっています。この地方では12月から翌3月にかけてコーヒー豆の収穫が行われます。家族全員、11,2歳の子供までもが農園で働きます。朝6時から始め、夜11時まで続くこともあります。
夜明けとともに農園へ向かった人々は、赤くなったコーヒーの実を1つずつ摘んでいきます。実が熟して落ちてしまうと使い物にならないので、早く摘まなければいけません。1日中立ちっぱなし、晴れた日には高温のなかで働きます。雨が降ると作業が遅れてしまうので、さらに急がなくてはなりません。
1日中実を摘み終えた後は、籠に入れてロバの背に乗せて帰ります。1回では乗せきれず、3回も4回も往復することもあります。帰って夕食を済ませると、皮むきをします。カスは取っておいて、肥料として使います。皮をむくと赤い実の中に緑の種が入っており、これがコーヒー豆です。この豆を25時間から36時間水につけて洗った後、乾燥させるのです。
こうした作業を続け、収穫機が終わるころには、家族全員がやつれ果ててしまいます。
こうして乾燥させたコーヒー豆を、谷に住む仲買人に買い取ってもらいます。村にはお店がないので、代金の代わりに砂糖や道具などと交換してもらうこともあります。山間部をつなぐ道路がなく他に手段が無いので、仲買人が一方的に決めた値段に従うしかありません。
(仲買人)「だめだなあこの豆は。ひどい出来だね。1キロ25セントがやっとだよ」
仲買人は豆のせいにして安く買い取り、町で高値で売るのです。
(生産者)「すみません・・・(あんなに一生懸命働いて作っているのに、どうしてこんな安い値段になってしまうんだろう)」
農民たちの生活はとても苦しいものです。家は荒れ果てているのに、修理するお金がありません。茅葺き屋根の萱が抜け落ち、壁の穴やひびはそのまま。
病気になっても病院がありません。
借金にも追われ、借金を返すためにまた借金をする、という悪循環に陥っています。
(生産者)「どうしてこんなに生活が苦しいんだろう?何が問題なんだろう?」
人々は考えました。荒れ果てた不衛生な家、医療機関もない、学校もない、食べ物の備えもままならない。水道や電気もありません。運送手段は仲買人が独占しています。そして、返せない借金。問題だらけです。でもその中で、1番大きな問題は、何なのでしょうか
(生産者)「借金と・・・コーヒー豆の価格だ!!コーヒー豆づくりにかかる費用を考えると、仲買人の買い取り価格ではどうしても生活していけないよ」
仲買人の言う値段は本当に正しいのか?人々はこっそり、麻袋を買って、トラックを借り、コーヒー豆を少しはなれた港町まで持っていきました。すると、なんとそこでは1キロあたり95セントの価格がついたのです。仲買人の価格とは全然違います。実に1キロあたり約70セントが、仲買人の儲けになっていたのです。
(港の買い取り人)「なかなか良い品質ですね。ぜひこれからも頑張って作ってください」
(生産者)「ありがとうございます!!」
みんな、驚きながらも、自分たちのコーヒーに自信を持ちました。
「団結しよう」農民たちは村を越えて集まり、正式な生産者団体として手続きをおこないました。書類やはんこ、署名など、全てをやり遂げるのはとても大変なことでした。それでも生活を変えるため、人々は「イスマス地方先住民協同組合UCIRI」を立ち上げました。品質の良い商品を届け、正しい価格で買ってもらう。寄付や支援にはできるだけ頼らない。
(生産者)「哀れみを乞うつもりはないよ。俺たちは乞食じゃない。ただ、俺たちの作ったコーヒーを適正な価格で買ってくれさえすれば、援助なんていらないんだ。」
この考えを受け入れてくれる取引先を探し、ボランティア組織などと連絡を取った結果、ヨーロッパのフェアトレード団体と協力することができました。
ここで、先ほどでてきた言葉、「フェアトレード」について説明します。フェアトレードは、人と地球にやさしい貿易のしくみです。アジアやアフリカ、中南米などの女性や小規模農家をはじめとする、社会的・経済的に立場の弱い人びとに仕事の機会をつくりだし、公正な対価を支払うことで彼らが自らの力で暮らしを向上させ、自立できるよう支援します。「良い商品に、適正な価格を」これがフェアトレードの基本です。また、小規模農家や手工芸職人に継続的に仕事をつくりだし、製品がつくられる背景の透明性を保ちます。また、農薬や化学肥料に頼らない自然農法や、生産地で採れる自然素材と伝統技術、手仕事を活かした生産によって、持続可能な社会の実現を目指しています。
ところが、こうした農民たちの活動を快く思わない人もいます。長い間コーヒー豆の仲介業で私腹を肥やしてきた、仲買人です。彼らにとっては大きな収入源を失ったのですから、ありとあらゆる機会を狙って、活動の妨害をしてきました。
UCIRIのトラックのタイヤがパンクさせられたことも1度や2度ではありません。山奥では換えのタイヤが手に入らないので、パンクはとても困ります。村の代表がギャングに襲われたこともありました。警察と手を組んで、農民たちを逮捕したこともありました。しかし、農民たちはどれだけ弾圧されてもあきらめませんでした。人間らしい生活を送るため、一層団結を強め、「一緒に勝利しよう」と声を上げ続けました。そしてとうとう、財産を使い果たした仲買人たちは、妨害行為をできなくなりました。
UCIRIは発展を続けました。UCIRIはさまざまな団体から成っています。UCIRIの方針に共感した農民は誰でも加入できます。ただし、条件は仲買人たちのような、暴利をむさぼるような行為はしないこと。たとえ1袋であっても、貧窮している隣人からコーヒー豆を安く買い取り、それを誰かに高く売りつけるようなことがあってはいけません。それは許されないことです。
UCIRIでは、商店も運営しています。1番大きなお店ではトイレットペーパー、オイル、シャンプー、サンダル、長靴、砂糖、ジーンズ、石鹸、衛生用品といった生活必需品がそろっています。山間部の主な村にもお店をつくりました。商品は製造業者から直接仕入れ、出来る限り安い価格で売ります。やがて、以前からあった店も、UCIRIに合わせて価格を下げるようになりました。これまで、村の役人や仲買人たちは、他に選択肢がないのをいいことに、生活雑貨の価格を吊り上げていたのです。
UCIRIはさらに、商品の多様化を目指し、ジャムの製造もはじめました。このあたりでは、カシス、マンゴー、パッションフルーツなどが豊富に取れます。近代設備を揃えた工場で、これらの果実をジュースやジャムに加工し、国内外に売っています。もちろん、すべて有機栽培の自然食品です。
UCIRIは木々の植樹も始めました。コーヒーの木に日陰をつくるためにも木は必要だし、燃料用の薪にもなります。生態系を保つためにも、この地の気候になじんだ木を植えることは良いことのはずです。
さらにUCIRIは縫製工場もつくりました。就職先のない、山間部のインディオ系の若者に雇用を創るためです。若者たちが希望を失わず、都会に流れるのを防ぎ、「山間部にも未来がある」と思うことで、インディオの文化も伝えていくことができます。
そしてUCIRIでは、組合員のための信用貸付も行っています。金利は銀行の半分、病気のときは無利子です。毎年のように膨れあがる借金の苦しみから、ようやく抜け出せつつあります。
確実に、農民たちの生活は変わっているのです。
UCIRIの発展とともに、農民たちの生活は向上していきました。フェアトレードを始める前は日収80セントだった彼らの収入は、今では1日2ドルまで増えました。しかしそれでも、メキシコの最低賃金基準である「日給3.3ドル」には届きません。まだまだ、道半ばなのです。
さあみなさん、あなたもフェアトレードを始めませんか?実はフェアトレード商品は、コーヒーだけではありません。服やカバン、チョコレート、紅茶、クッキーなど、身のまわりにあるいろいろなものに、「フェアであること」を求めて作られた、フェアトレード商品があります。